空き家対策特別措置法(空き家特措法)とは?(下)

文:司法書士 庄司法務事務所 代表 庄司 遼 氏
◇前回のおさらい
「空き家対策特別措置法」について、前回は、法律の概要と、空き家所有者として注意すべきことなどを中心に書きました。<前回の記事:空き家対策特別措置法(空き家特措法)とは?(上)>
長期間放置され、周囲に悪影響を及ぼす空き家(特定空き家)になってしまうと、税金面での不利益や、損害賠償などの法的責任が生じる可能性があります。したがって、市町村や不動産業者と連携し、適切な管理が重要になります。
続きとなる今回は、空き家所有者として知っておくべきこと、周辺住民として行使できる権利関係などを中心に書いていきます。

◇空き家を自治体やNPOに寄付したい
空き家を所有している方の悩みとして多いのが、買い手や借り手がつかず、処分に困っていることです。いっそのこと、お金なんて要らないから、自治体がもらってくれたら管理する手間がなくなって楽なのに・・と思われる方もいるでしょう。
では、自治体は空き家の寄付を受け入れるのかというと、慎重な対応をする自治体が多いようです。自治体が不動産の寄付を受け入れると、固定資産税などの税収を失いますし、受入れ後の管理費用も必要になります。行政目的が見出せない寄付の受入れは、難しいのが現状です。
NPOなどの公益的な組織への寄付は、受入れ側に活用方法があるかどうかがポイントになります。ただし、個人が法人に寄付した場合は、寄付時の時価で譲渡したものとみなされて譲渡所得税の課税対象になることに注意が必要です。公益法人等への寄付は、要件も満たすものであれば譲渡所得税が非課税となりますので、税務署や税理士に確認されると良いでしょう。

◇空き家を解体したい
老朽化した空き家は、活用方法が見出せず、解体した方が良いと判断される場合もあります。また、老朽化により倒壊の危険があれば、早急に解体をしなくてはいけないケースもあります。そこで、老朽危険家屋に限定してではありますが、解体工事費の一部を補助する制度を設けている自治体もありますので、工事着手前に、自治体に制度の有無を確認すると良いでしょう。
空き家の解体に関して、注意しなくてはいけない点としては、遺産分割協議が未了の状態での解体です。その場合、空き家は共有状態になっています。共有状態の場合、建物を解体することは「処分行為」となるため共有者全員の同意が必要となるのです。相続人の一人が勝手に解体をしてしまうと、場合によっては損害賠償請求を受けたりすることもありますので、相続発生後は、速やかに遺産分割協議と相続登記手続を行い、所有者を確定させましょう。

面倒で難しい手続きは、専門家である司法書士や行政書士に依頼するのも良いだろう

◇近隣の空き家が危険なのだが、所有者が分からない
危険な空き家を何とかしたいが、所有者が分からない、というケースであり、町内会が動くこともあるでしょう。所有者を知らない場合、まずは法務局で空き家とその敷地の登記記録(登記簿)を調べ、あるいは近隣への聞き取りによって所有者を把握します。
登記記録により所有者の住所を把握できても、その住所に居住していない、という可能性もあります。その場合、所有者の現住所を探索するため、住民基本台帳法又は戸籍法の規定に基づいて(自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合)、住民票の写しや戸籍謄本の交付を請求することができます。
これらの調査によっても、所有者(又は相続人)の所在が不明なときは、その者について、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申立てする必要があるでしょう。不在者財産管理人が選任されると、隣地所有者等は、管理人との話し合いで、空き家の適正な管理を行ってもらうことができます。

◇マンションは「空き家」なのか
空き家特措法上の「空き家」とは、居住されていない建築物をいい、集合住宅については、一棟全体のことを指します。つまり、空き家特措法上の「空き家」に該当するか否かは、一棟全体で判断されるため、一部屋でも居住者がいるマンションは、「空き家」には該当しないことになります。したがって、空き家特措法に基づいて市町村が強制力を行使することはできません。空き部屋については、区分所有法に基づいて民事上の対応をすることになります。

◇空き家を放置した場合に生じる法的責任
税金面での不利益については、前回お話したとおりです。では、危険な空き家を放置したままでいると、どのような法的責任が発生するのでしょうか。
まず、老朽化により屋根や壁が崩落したとき、通行人などが怪我をした場合、損害賠償の責任を負います。これは、民法717条1項に規定された「工作物責任」というものですが、特筆すべきは、所有者の責任が「無過失責任」という点です。つまり、過失がなくても責任を負わなくてはいけないのです。人が怪我をしたり、死亡したりした場合の責任は、損害賠償額が高額になることが多いです。崩落の恐れのある家屋の所有者(又は相続人)は、十分な管理が必要でしょう。
また、空き家特措法に基づく「勧告」を受けたにもかかわらず、正当な理由もなく勧告に従わなかった場合には、市町村は「命令」を行います。その命令にも従わない場合は、50万円以下の過料に処せられる可能性があります。

◇空き家の解消に向けて
会津若松市で把握している市内の空き家数は、平成30年1月31日時点で、1,333戸あり、うち危険性が高いと認定された空き家(特定空家等)は、13戸あるそうです。特定空家等に指定されるケースの場合、建物の状態以外に、庭木や塀についても指導することになっていて、実際に、庭木の手入れがされていないことで、特定空家等に指定された事例もあるようです。
このように、特定空家等の指定など、自治体が具体的な対策を行っていますが、空き家の発生抑制や、利活用対策には、自治体だけの力では不十分です。
相続手続が進まないケースであれば、司法書士や弁護士のサポートにより解決できるかもしれません。また、空き家データなどの情報や空き家の売却・賃貸については、不動産業者が手助けしてくれます。これらのネットワークを有効活用して、自分の住む地域を、空き家のない、活気ある街にしていきたいですね。

更新日:2018年3月8日


庄司 遼(しょうじりょう)氏
司法書士 庄司法務事務所 代表。
司法書士、行政書士、金融広報アドバイザー。会津若松市出身。千葉大学法学科卒業後、25歳の時に司法書士試験に合格。郡山市内の司法書士事務所での勤務を経て、2013年3月司法書士庄司法務事務所を開業。相続・売買などの不動産登記、会社設立・役員変更・NPO法人などの商業・法人登記、成年後見業務を主な業務として、地域に密着したサービスの提供を行っている。

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