「相続登記」の詳しい流れ

住まいに関わる相続の大切なおはなし その3
「相続登記」の詳しい流れ
文:司法書士法人 あい事務所 代表 田中 裕志 氏

前回までは、「相続登記」とは何か、またその方法について書きました。
・土地があるのに家を建てられない!?~「相続登記」は大事です
・さまざまな「相続登記」の方法
今回は、相続登記の流れなどその実際について書いていきます。
前回までと内容が重なるところもありますが、より詳しくわかっていただけると思います。

◇名義人が亡くなってしまったら

土地や建物の所有者(登記名義人)が亡くなった場合、相続登記を行います。ただし平成30年5月時点の法律では、相続登記は義務ではありません。ですから、法的には「相続登記をしなければならない」ということはありません(しかし、将来、法律が変わって義務になるかもしれません)。
名義人が亡くなると、土地建物にかかる固定資産税は名義人の法定相続人に通知されます。相続人が複数いる場合には、役所が任意にその一人に対して通知しているようです。土地建物をだれの所有(名義)にするか決まっていない段階では、法定相続人の共有という扱いになるので、固定資産税や管理費用は相続人全員に支払い義務があります。

◇「相続放棄」という選択もある

相続人のうちで「自分は土地建物や預貯金など一切を引き継がない代わりに、固定資産税や管理費用も負担したくない」と考える方は、「相続放棄」の申述(申立)を家庭裁判所に行います。これにより、法的には相続人でないことになりプラスの財産やマイナスの財産(税金や借金など)を承継しないことになります。
申し立ては、複数の相続人のうち1人でも行うことができます。各自の判断により「私は相続放棄する」「私はしない」と決めることができます。

この相続放棄にはいくつかの注意点があります。まず、亡くなったことを知ったときから3ケ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。そして裁判所に受理されると相続放棄の効力が発生します。
そしていったん受理されると原則撤回できません。ですから、相続放棄を検討する場合には、財産や負債の内容、金額を具体的に調べる必要があります。そのうえで、慎重に判断しなければなりません。

◇「遺産分割協議」で所有権を話し合う

奪い合うのではなく、みんなが納得できるようにきちんと話し合いましょう。

相続登記をするにはまず、相続放棄をした人以外の相続人全員で話し合いを行い、遺産を「誰の名義にするか」決めなければなりません。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。分割の対象財産は、土地建物だけでなく預貯金や動産、負債など一切の財産が含まれます。全員が合意すればどのように分割しても構いません。相続人のひとりである「Aさんがすべての財産を相続する」との合意も有効です。ただし、全員一致が必要です
協議が成立すると、その内容を「遺産分割協議書」という文書にまとめ、相続人全員が署名して実印を押印します。この文書などを法務局(登記所)に提出して、相続による所有権移転登記(相続登記)を行います。

名義変更をすると確定的に所有者が決まるので、その土地建物の固定資産税の負担や管理責任はその所有者が負います。また、所有者は土地建物の管理、使用、処分の権限があるので、売却したりリフォームしたり抵当権(担保)に入れたりすることが自由にできます。住宅ローンを組むと、たいてい土地建物に抵当権設定をします。このとき土地の名義が亡くなった人のままでは抵当権設定ができないので、前提として相続登記をしておかなければなりません。

◇「法定相続人」が増え過ぎないように

では遺産分割協議をする法定相続人とは、誰のことをいうのでしょう?

これは民法という法律で決まっています。現在の民法では配偶者(夫や妻)は必ず法定相続人になります。加えて、第1順位は直系卑属(子供、場合によっては孫)、直系卑属がいなければ第2順位は直系尊属(親や祖父母)、直系卑属もいなければ第3順位として兄弟姉妹が法定相続人になります。
つまり、子供がおらず親も亡くなっている場合には、兄弟姉妹(亡くなっている場合にはその子供)が相続人になります。場合によっては、人数が多くなり、疎遠な人たちで話し合いをしなければなりません。このようなことが予測される場合には、あらかじめ遺言書を作成して「誰に相続させるのか」を決めておく必要が高いと思います。

また、登記の名義(所有権)が数世代前の人の場合には、(数次相続といって)法定相続人が、子供、(子供が亡くなっていれば)その子供(つまり孫)、その孫も亡くなっていればその子供・・・とネズミ算式に世代をまたいで増えていきます。そうすると、遺産分割協議は全員の合意が必要なので非常に合意が難しくなります。人数が多くなり、関係の遠い人たち同士で協議しなければならないからです。
そうならないために、相続登記は義務ではありませんが、1世代に1回は相続登記をしておいたほうが良いと思います。

更新日:2018年5月28日


田中 裕志(たなか ひろし)氏
司法書士法人あい事務所 代表。
司法書士(簡裁訴訟代理関係業務認定)、行政書士。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、事業再生士補、貸金業取扱主任者と多くの資格を持つ。
会津若松市出身。千葉大学法学科卒業後、松戸市内の司法書士事務所での勤務を経て、平成10年に会津で個人事務所を開業。平成25年に司法書士法人あい事務所を設立した。平成27・28年度は会津若松商工会議所青年部会長も務め、精力的に活動している。「ひとりひとりの問題解決に、全力を尽くす」をモットーに、一期一会の心構えで仕事を通して地域貢献に努めている。

 

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