「自己資金は使わずにフルローンにした方が得ですよ」は本当か?

文:株式会社あいFP事務所 代表取締役 ファイナンシャルプランナー 菊地智恵 氏

◇家を建てるAさんが住宅ローンを組むことに。

「家が欲しい」と思い、頑張ってお金を貯めてきたAさんという方がいました。

ある建築会社さんに建築条件付きの広めの土地があり、そちらにお願いすることになり、とんとん拍子で話が進みました。

総額が大体決まり、土地建物で3,800万円くらいです。

おじいさんおばあさんとも同居するので、部屋数も多くなり、どうしても大きな家になってしまいます。3,800万円は大金ですが、家も大きいし、金額的には特に不満はなく、むしろ建築会社さんには頑張ってもらったとAさんは思っていました。

総額もだいたい決まったので、住宅ローンの事前審査に進むことになりました。ある銀行を建築会社さんから進められ、金利は3年固定で0.65%とのことです。

Aさんは当然ですが、住宅ローンを組むことは初めての経験です。その金利が安いのか高いのか、3年固定が自分に合っているのかもよくわかりません。でもこれから家を建ててもらう建築会社の営業の方が勧めてくれているので、問題ないだろう、と思ってお願いすることにしました。

◇全額をローンにしたほうが得と言われ…

Aさんには住宅の頭金にしようと貯めてきたお金がありました。

そのお金を使って、住宅ローン分を少しでも減らすことが良い組み方だろうと思っていました。

ところが、住宅会社さんから、“3,800万円全額を住宅ローンにした方がお得ですよ”、と勧められました。

いっぱい借りてお得ってどういうこと?と頭の中は??はてなマークがいっぱいです。

落ち着いて話を聞いてみると、「住宅ローン控除」という制度があり、住宅ローンを組んでいると、10年間、住宅ローンの年末残高の1%(消費税8%時)を上限として、税金控除があるのだそうです。共働きでご夫婦お二人で連帯債務で住宅ローンを組もうとしていたので、2人共にローン控除が使えると聞いて、へ~家を建てる人に国は優しいのね♪と納得して、全額ローンにしようと思ったそうです。

◇頭金ありなしで計算してみよう

Aさんご夫婦お二人の所得税住民税の支払が年間50万円ほどあると仮定します。

住宅ローン借入金額3,800万円、金利0.65%(計算上、金利は上昇せず、変わらないと仮定して計算)、35年返済として、毎年のローン年末残高の1%を計算すると、10年間の毎年の年末残高の合計は約37万円~28万円(毎年年末残高は減るので、控除額も少なくなっていく。Aさん夫婦の収入がずっとあるとしての計算ですよ。)と推移していくので、トータル330万円位、住宅ローン控除で税額控除の恩恵がありそうです。

では、もし、こつこつ貯めていた1,000万円を頭金にして、住宅ローン金額を減らすとどう変化するのか?を計算してみます。住宅ローン金額が2,800万円の10年間の年末残高の合計は約246万円です。

確かに、住宅ローン控除の部分だけを抜き出して比較すると、330万円vs246万円だから、いっぱい借りた方がお得そうです。・・でもこの部分だけの比較でいいんですかね??

◇全額ローンは結局お得なのか?

毎月の住宅ローン返済額×35年分に自己資金額を足して、住宅ローン控除分を引くと、総支払額が出ます(他の補助金などは考慮していません)。

その総支払額を比較すると、多く支払うのは、結局「借入が多い方」です。

自己資金を使って借入金額を抑えた方が、総支払額は抑えられます。

なので、いっぱい借入をした方がお得ですよ、というのは総支払額でみれば正しくないのですが、人生トータルで見ると、お得な可能性もあります。

建築会社の営業の方は本当はそこが伝えたかったのでしょうね。

 

貯めてきた1,000万円がAさんの貯蓄額のどのくらいの割合なのかが大事で、貯蓄ののほぼ全部を出そうとされているなら、働けないなどのことがあった場合、あっという間に家計破たんにつながる可能性もありますよね。

貯蓄額が総額いくらあって、どこまで住宅の頭金に充ててもいいのか、何かあった時に充てるお金は残せているのか、家を建てた後にも毎年貯蓄は出来るのか、当然ですが資金計画を立ててから借入金額を決める必要があります。

少し得と思えることも全体でみるとリスクに繋がることだったり、また逆もあります。

大事なことは「得できるか」よりも、大きな借金になるのですから、「リスク管理が出来ているか」どうか、です。

Aさんについては、そもそも3年固定の住宅ローンが合っているのかどうかの計算も必要ですよね。

毎月のことや1、2、3年などの比較的近いことについては考えられますが、ちょっと先のことは自分の人生のことであってもわかりにくいものです。

だからこそしっかり計算して、俯瞰(ふかん)してみることが大事ですよ。

更新日:2019年11月26日


菊地 智恵(きくちともえ) 氏
株式会社あいFP事務所 代表取締役。
ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、貸金業取扱主任者。会津若松市出身。住宅ローン取扱業務の経験後、『特定の会社に属さず、客観的な立場から住宅購入をサポートできるようになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするファイナンシャルプランナーとして、第三者的な立場から住宅購入相談を行っている。住宅購入では『知っているか知らないか』だけで将来の家計に1,000万円以上の違いが生まれることから、正しい知識の普及にも努めている。

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