ありがたい援助「贈与」のアウトライン

文:株式会社あいFP事務所 代表取締役 ファイナンシャルプランナー 菊地智恵 氏

◇住宅取得時のご家族からのありがたい援助

家を建てる時に、ご両親やおじいちゃんおばあちゃんから援助を受けるという方がいらっしゃると思います。とてもありがたいお話ですが、何をもらうのか(土地or現金)、いくらもらうのか、誰から誰にもらうのか、などによって手続きや要件が変わってきますので注意が必要です。

「これから家を建てる」という方々とお打合せを進めていると、計画のスタート時点で金銭の援助が受けられる(土地を譲り受ける場合は別)、または受ける額が決まっているという方はとても少ないように感じています。すべて自分たちでやりくりしようと思って計画を進めていると、「少し手伝うよ」ということになり援助してくださるようです。これからの住宅ローンが大変そうだな、と思われるのでしょうね。

援助するよ、と言ってくださる時期ですが、早い時期ですと頭金として使われ、少し計画が進んでからだと、家の仕様アップに使われることが多いように思います。どのように使われてももちろんいいのですが、基礎控除額の110万円を超える金額を受け取る場合は手続きが必要になり、建物が完成してから受け取ると非課税制度が使えないので気を付けてください。

◇贈与税が要件を満たせば非課税になる

自分で住む家を建てる方が、その取得資金について父母・祖父母などからの金銭の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば、贈与税が非課税になる制度があります。「住宅取得資金の贈与税の非課税」という制度で、今現在(平成30年7月)ですと限度額は一般住宅で700万円、省エネ・長期優良住宅等で1,200万円が限度額になります。
時期と消費税率、住宅の性能(証明書が必要)で限度額に差がありますので、税務署のホームページで確認してくださいね。
“時期”については、贈与を受けた時ではなくて、住宅の契約締結日で判断になりますので、ちょうど限度額が変わる境目の時期に贈与を受けて新築する場合は、確認しながら進めてください。

例えば、今年(平成30年)一般住宅(省エネ・長期優良住宅等以外)を建てる方がお父さんから800万円の贈与を受けた場合、住宅取得資金の贈与で700万円が非課税になり、はみでた100万円については暦年課税(毎年110万までは非課税)との組み合わせで申告手続きをすることにより、非課税になります。

別パターンで、一般住宅を建てる方がおじいさんから1,000万円の贈与を受けた場合。700万円からはみ出た300万円は、相続時精算課税制度(特別控除額2,500万円)と組み合わせて申告手続きをするという方法があります。
おじいさんからの贈与について、相続時精算課税制度を選んで申告した場合、その後におじいさんから贈与を受ける場合はすべて相続時精算課税制度を使うことになって、暦年課税は使えません。

そして援助を受け取る時期ですが、完成してから“お祝い”なんて形で数百万受け取ってしまうと、住宅取得資金の贈与の非課税の枠は使えません。あくまで住宅を「取得」するためなので、取得後に受け取った部分は対象にならないんですね(暦年課税や相続時精算課税制度は使えます)。住宅ローンの繰上に充てて、よしっ!て思ってうっかり何の手続きもしなかったりすると後から大変ってことになりますので、適切な時期に受け取って忘れずに申告手続きをしてください。

ご家族の思いやりを大事にするためにも、贈与のことをしっかりと学びましょう。

◇金銭ではなく土地を譲り受ける場合

これもありがたいですよね。ぽこっとある土地を譲り受ける場合、贈与の登記手続きをして名義変更をします。贈与契約書も作っておいてくださいね。登記が終わると、数か月後に不動産取得税の納付書が届きます。不動産取得税は相続で引き継いだ場合は課税されませんが、贈与・売買による取得は課税されます

ぽこっとある土地ではなく、ご両親の敷地内の一画に建てるという場合で、土地を分けずに使う場合は、その土地と土地上の建物すべてに抵当権設定が必要になり、金融機関によっては土地の所有者に連帯保証人になることを求められます。

連帯保証人になってもらうの嫌だなという場合は、ならなくていい住宅ローンを選択します。親の土地を分けたい場合は土地の形状にもよりますし、費用も掛かりますが分筆してその部分について贈与を受けると住宅ローンの手続きは自分たちだけで完結できます。ただし、不動産の贈与になると相続時精算課税制度を使われるようになると思いますが、相続時に精算するという意味なので、他の財産も多くあり、相続税が掛かる可能性がある場合は、後々の展開まで考えられる専門家に相談してから進めてください。

◇援助してくださるお金をありがたく大切に住宅に使う

住宅取得資金の1割(300万)位を援助してくださる方や、土地代分(6~800万程度)を援助してくださるという方もいらっしゃいます。

贈与していただいたその分、総額が増えてしまったのでは意味がありません。まず、自分たちの予算を決めることが前提で、贈与していただけることになったら、頭金などに充てて、自分たちが出す予定だった分は後々の為に貯めておく、または、フルローンにする予定だった方は、頭金に充てて、より有利なローンにするなど、いただいたお金をちゃんと住宅取得に活用して、ありがたく大切に使わせていただきましょう。

そして、贈与の申告手続き(受け取った方)も必ずお願いしますね。

更新日:2018年7月31日


菊地 智恵(きくちともえ) 氏
株式会社あいFP事務所 代表取締役。
ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、貸金業取扱主任者。会津若松市出身。住宅ローン取扱業務の経験後、『特定の会社に属さず、客観的な立場から住宅購入をサポートできるようになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするファイナンシャルプランナーとして、第三者的な立場から住宅購入相談を行っている。住宅購入では『知っているか知らないか』だけで将来の家計に1,000万円以上の違いが生まれることから、正しい知識の普及にも努めている。

関連記事

家コムからのお知らせ

ページ上部へ戻る