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土地があるのに家を建てられない!?~「相続登記」は大事です
住まいに関わる相続の大切なおはなし その1
土地があるのに家を建てられない!?~「相続登記」は大事です
文:司法書士法人 あい事務所 代表 田中 裕志 氏
◇希望の土地は、家を建てられる土地か?
新しく家を建てたいと考えたとき、必ず必要となるのが家を建てるための土地ですよね。工法や間取り、材質など建物の内容も大切ですが、どこに家を建てるかも、とても重要だと思います。
子どもの学区や職場との距離、家族関係などで、地区を限定して土地を探している方も多いでしょう。また、数世代で同居の場合、家族の土地で家を建て替えることもあるでしょう。
そしてようやく希望に合う土地を見つけて「ここに家を建てたい!」と思ったとき、まずその土地が家を建てられる土地であるかを確認しなければなりません。
実は、建築基準法などをクリアして「物理的に」家が建てられる場合でも、土地の名義の問題で結局家を建てられないことも少なくないのです。
◇「土地の名義」の確認のしかた
「土地の名義」とは何か。平たく言うと「その土地を持っている人の名前」ですね。日本では原則として、土地や建物の名義は各地にある登記所(法務局)で管理している「登記簿」に記載されています(以前は、紙の束で綴っていましたが、現在はコンピュータ上のデータで管理されています)。
登記所に行って、土地であれば「地番」、建物であれば「所在」と「家屋番号」を特定して申請すれば、登記事項証明書(登記簿謄本)を発行してくれます。家を建てられる土地であるかの確認は、まずその土地の登記事項証明書を取得して、所有者やその他の内容を確認することから始まります。
とは言っても、通常この作業は、建築業者さんや不動産業者さんが行ってくれます。
◇住宅ローンには土地の名義が重要
ではどのような時に、「土地の名義の問題で結局家を建てられない」事態になってしまうのでしょうか?それは、土地の名義が既に亡くなった人である場合です。
家を建てる時、通常金融機関から住宅ローンを借り入れます。そしてほとんどの場合、担保として「抵当権」を土地建物に設定しその登記をします(抵当権設定登記)。「抵当権」とは、万が一家を建てた方がローンの返済ができなくなった場合に、金融機関がその土地建物を売却して、優先してその代金を回収することができる権利です。
抵当権設定登記をするには、土地所有者の承諾が必要です。実務的には、契約書にサインをしたり、実印を押して印鑑証明書を提出したりしなければなりませんが、亡くなった人にはそれらをしてもらうことができません。すると、抵当権設定登記できない → 住宅ローンを借りられない → 家が建てられない、ということになってしまうのです。
ではどうすればいいのか。相続による所有権移転登記(相続登記)をして、名義を替えることができれば、その土地は晴れて自分のものになり、家も建てることができるようになります!
しかし、この相続登記が非常に難しい場合もあるのです。
◇次世代のためにも早めの相続登記を
現在の法律(民法)では、原則、法定相続人全員の合意でなければ相続登記ができません。つまり相続登記が非常に難しい場合としては、相続の権利がある人(法定相続人)全員の合意が得られない場合が考えられます。具体的には、何世代も相続登記を行っておらず、権利者が何十人もいる。相続人同士の話がまとまらない。そもそも連絡が取れない。などです。
普段は「土地の名義がどうなっているか」ということは意識しないでいることが多いと思います。土地は使えるし、日常生活に不便が生じることも少ないでしょう。しかし、家を建てる、ローンを借りるといった場合に、このように大きな問題として浮かび上がってきます。
私が仕事をしている中でも、相続登記をしておらず亡くなった人の名義のまま放置されているケースを、まま目にします。相続のやっかいなところは、時間が経てばそれだけ関係人が増えて手続きが難しくなることです。相続人が亡くなればその相続人は権利を引き継ぐので、世代を経るごとにネズミ算式に関係者が増え、合意が困難になります。
ですから、子、孫の世代に迷惑をかけないためにも、特に土地については1世代に1回は相続登記することをお勧めします。それが、家を建てる時の障害にならないことにも大きくつながります。
家を建てたいと思ったら、まず土地の名義を確認して、早めに相続登記をしましょう!
更新日:2017年6月5日
まとめ
○物理的に家が建てられても、土地の名義の問題で家を建てられないことも少なくない。
○土地の名義は、法務局の登記事項証明書(登記簿謄本)によって確認できる。
○土地の名義が亡くなった人の場合は、土地建物を抵当に入れられず、ローンを組めないので、家を建てるのが難しくなる。
○相続登記で名義を替えられるが、法定相続人全員の合意が得られないことも多い。
○家を建てるなら、まず土地の名義を確認して、早めに相続登記をしよう。
田中 裕志(たなか ひろし)氏
司法書士法人あい事務所 代表。
司法書士(簡裁訴訟代理関係業務認定)、行政書士。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、事業再生士補、貸金業取扱主任者と多くの資格を持つ。
会津若松市出身。千葉大学法学科卒業後、松戸市内の司法書士事務所での勤務を経て、平成10年に会津で個人事務所を開業。平成25年に司法書士法人あい事務所を設立した。平成27・28年度は会津若松商工会議所青年部会長も務め、精力的に活動している。「ひとりひとりの問題解決に、全力を尽くす」をモットーに、一期一会の心構えで仕事を通して地域貢献に努めている。