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大切な家族と資産を守る「成年後見制度」
文:司法書士 庄司法務事務所 代表 庄司 遼 氏
◇母の施設料を自宅の売却で捻出したいが・・
Aさん(65歳)の母親(90歳)は、自宅で一人暮らしをしていましたが、5年前に倒れてから、現在は介護付有料老人ホームに入所しています。母親の預貯金が少なく、施設に支払うお金が足りなくなってきたので、Aさんは、母親の名義となっている自宅と土地を売却して、施設料に充てたいと思いました。
幸い、知り合いの不動産業者さんが、自宅を買い取っても良いと言ってくれたので、売却の話が進みましたが、現在、母親は認知症で、日常会話もほとんどできない状態です。
はたしてAさんは、どうすれば良いでしょうか。
こうしたケースは、最近、特に多くなってきました。
ご家族が、本人の自宅や土地を売りたいと思っても、本人が認知症で、売却の話を理解できない場合、本人の「意思確認」ができません。また、相続人の間で遺産分割協議を行うときも、判断能力の不十分な方がいる場合は、協議がまとまらず、名義の変更などの手続きができなくなります。
そこで、こうした状況では、本人に代わって、本人の財産に関わる法律行為の意思決定ができる「法定後見人」が必要となってきます。
◇「成年後見制度」とは?
みなさんは、「成年後見制度」という言葉を、聞いたことがありますか?
不動産にかかわる事業者の方や、高齢の両親を持つ方などは、一度は関心を持ったり、自らお調べになったりしたこともあるかもしれませんね。
「成年後見制度」は、認知症や知的障がいなどにより判断能力が不十分な方を、法律的に支援するための制度です。家庭裁判所から選ばれた適切な支援者「法定後見人」が、判断力が不十分な方本人の希望を尊重しながら、財産管理や身上監護を行います。
◇法定後見人の仕事と報酬
法定後見人は、このような契約行為や相続における手続への参加、預貯金の管理、収入・支出の管理などの財産管理、また本人の住居の確保や介護契約の締結、病院への入院手続などの身上監護が主な仕事となります。
また、家庭裁判所へ定期的に報告を行い、適正な管理につとめているかのチェックを受けなければなりません。その際、管理に対する報酬を付与してもらうように申立てを行い、家庭裁判所がその額を決定し、法定後見人は本人の財産の中から報酬分を支出します。場合によっては、市町村が報酬を助成することもあります。
◇成年後見制度を利用するには
では、この制度を利用するには、どういう手続が必要なのでしょうか。
1、資料集め
まず、本人の戸籍謄本や住民票、医者の診断書・被保険者証などの本人の状況が分かるもの、通帳・残高証明書・不動産の登記事項証明書などの財産状況が分かるもの、年金支払通知書や施設の領収書などの収支状況が分かるものを準備します。
2、申立て
資料が揃ったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。ただし、申し立てることができる人は、本人・配偶者・4親等内の親族、市区町村長などに限定されています。
3、調査(鑑定)・審判
家庭裁判所で、申立書類に不備がないかチェックし、申立人や後見人候補者に対する聴き取り、必要に応じて精神鑑定などを行って、法定後見人を選任(審判)します。
最近の傾向として、申立書に後見人候補者として親族を記載しても、親族ではなく専門職(司法書士、弁護士など)が選任されることがあります。これは、財産使い込みの危険や、親族間の対立を考慮して、本人保護を図っているわけですね。
◇将来に備えた「任意後見制度」
「成年後見制度」には、もう一つ、将来の判断能力低下に備えて、本人がしっかりしているときに、自分の意思であらかじめ支援者を選ぶ制度があります。これを「任意後見」と言います。利用する場面としては、身寄りのない一人暮らしの高齢者の将来の不安解消や、知的障がい者や精神障がい者の親なき後の対策などが考えられます。
公正証書により任意後見契約を締結し、判断能力が衰えたら「任意後見監督人」の選任により効力が発生するというものですが、様々な契約の組み合わせによる活用方法があるので、任意後見については回をあらためて解説したいと思います。
◇安心して暮らすために上手な活用を
成年後見制度は、本人の資産を守るための大事な制度でありますが、その制度を利用することで、本人の家族や周りの人たちにも安心をもたらしてくれます。お子さんが知的障がいを持ち、自分は病気で将来への不安があったお母さんから言われました。
「自分が先にいっても、この子の将来、後見人さんがいてくれるから安心です」
成年後見制度は、みなさんの抱える悩みや不安を解決する一つのヒントかもしれません。上手に活用して、安心できる暮らしを実現しましょう。
更新日:2017年8月18日
庄司 遼(しょうじりょう)氏
司法書士 庄司法務事務所 代表。
司法書士、行政書士、金融広報アドバイザー。会津若松市出身。千葉大学法学科卒業後、25歳の時に司法書士試験に合格。郡山市内の司法書士事務所での勤務を経て、2013年3月司法書士庄司法務事務所を開業。相続・売買などの不動産登記、会社設立・役員変更・NPO法人などの商業・法人登記、成年後見業務を主な業務として、地域に密着したサービスの提供を行っている。