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人生100年を楽しむための「終活」のすすめ
文:司法書士 庄司法務事務所 代表 庄司 遼 氏
家をこれから建てる方も、すでに持たれている方も、それは「資産」となります。今回はそれらの資産を次の世代に継承していくための、「終活」についてのお話です。
100歳まで元気に生きる「人生100年時代」をこれから迎える中で、自らの「終活」を考えて、ご相談に来られる方が最近増えています。そこで、安心して「終活」を進められるよう、そのやり方を一緒に考えていきたいと思います。
◎3つのポイントで考える。
「終活」を考える上で抑えておきたいのが、資産の「1、把握」、「2、管理・運用」、「3、相続」の3つのポイントです。
「1、把握」
巷では「エンディングノート」と言われるものがあり、法的な効力はありませんが、終活においては大変役に立つ道具です。「エンディングノート」には、自分の生い立ちや趣味、契約しているサービス、アレルギーや医療情報などの個人情報、亡くなった後の葬式やお墓のこと、預貯金や保険など資産に関することなど、様々な情報を記載します。
その中でも、とくに大事なものが、資産に関することです。まずは、保有している資産について書き出してみましょう。
・預貯金
・不動産(土地・建物)
・生命保険
・株や投資信託
・ローンや保証債務
資産を書き出したら、それぞれ証拠となる書類が、どこに、どのような状態で保管してあるかも記載しておきます。例えば、預貯金口座の通帳、証書、不動産の固定資産税課税明細書などですね。
使っていない預貯金口座などは、早めに解約し、管理がしやすくすると良いでしょう。また、空き家になっている住居などの不動産についても、売却してお金に変えておくか、生前贈与により名義を変えておくと、遺産分割や相続税の支払いなどの手続きが楽になります。
「2、管理・運用」
「終活」に関する書籍などでは、本人がいつまでも元気であることが前提で書かれています。もちろん元気が一番なのですが、人生100年であるならば、「認知症」になってしまった場合に備えることも考えなくてはいけません。したがって、資産の管理と運用には、「認知症」になっても安心な、法的効力を持つ制度をあらかじめ利用しておくと良いでしょう。いずれの制度も「認知症」になる前に契約しておく必要があるのでご注意ください。
◇任意後見制度
任意後見制度は、以前このコラムでご紹介した成年後見制度の一つです。具体的な手続きは、次のような流れになります。
まず、本人が、希望する任意後見受任者(例:息子、娘)との間で、代理権(財産管理の手続きなど)を与える契約を、公正証書で結びます。そして、本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所が選任した任意後見監督人の監督の下、任意後見人は契約で決めたことを代理で行えるようになります。
任意後見制度のメリットは、法定後見と異なり、自分の希望する人を財産管理人に指定できるという点です。また、どういう手続きをお願いするのか、報酬はいくら払うのかなど、契約の内容は当事者の合意で定めることができるため、本人の意思をきちんと反映したサポートが期待できます。
◇民事信託
民事信託は、以前にこのコラムで取り上げた「家族信託」のことです。この制度も、様々な活用方法がありますが、契約項目の考案・作成など、法的な専門知識が必要となります。弁護士や司法書士、公証役場などの専門家に、一度ご相談されることをお勧めします。
◇保険会社の指定代理請求制度
認知症などにより、自分で保険金や給付金を請求できなくなった場合に、代理人が手続きできる制度です。代理請求できる人の範囲や商品は、保険会社によって異なります。詳しくは、加入している保険会社に確認しましょう。
「3、相続」
「争族」といわれるように、遺産相続が家族間の大きな揉め事になっているケースが多く、終活を考える上でも、「相続」の問題は避けて通れません。
そこで、終活において絶対やっていただきたいのは、遺言書の作成です。代表的な遺言書の種類を2つご紹介します。
◇自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は、本人が自分で書いて保管しておくものです。簡単に作成できる反面、紛失や改ざんのリスクがあり、亡くなった際には家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。
◇公正証書遺言
「公正証書遺言」は、本人が公証人に遺言の内容を伝え、証人2人以上立てた上で、公証人に作成してもらう遺言です。紛失や改ざんの心配はありませんが、財産額により数万円の費用がかかります。
どちらの遺言も、法的効力に違いはありませんが、様式や記載内容の不備によるトラブルを避けるには、「公正証書遺言」を利用される方が良いでしょう。
具体的な遺言書の内容は、ケースバイケースですが、一つ心がけていただきたいことがあります。それは、財産を分けるだけの報告書的な内容ではなく、本人の「ハート」を感じられるものにする、ということです。なぜこのような内容にしたのか、受け取った相続人全員が納得するメッセージを添えてほしいのです。
◎家族の絆を深めるきっかけにする
「終活」は、決してネガティブなものではなく、自分の人生を振り返ることでこれからの人生をより良く生きていくための活動です。
まずは、始めてみることです。エンディングノートなどを活用しても良いでしょう。
『終活夫婦』という本を出した中尾彬・池波志乃夫婦は、お互いが病気になったことで、身の回りのことや不動産の管理が大変であることを意識し始めたそうです。それが「終活」につながったのですが、きっかけは人それぞれですね。「断捨離」ということで、まずはモノの片付けから始めるのも良いでしょう。
そして、「終活」には、ぜひ周りの家族を巻き込んでください。自分が元気なうちに、お金関係を含めたふだんの生活や、楽しみ、望む生き方を共有して、知ってもらう。親に「終活」をすすめたい人は、まずお金のことではなく、いろんなことを共有し、信頼関係を築くことから始めてみてはいかがでしょうか。そうすることで、「終活」は、家族関係を見つめ直し、家族の絆を深める良いきっかけになるでしょう。
更新日:2020年3月30日
庄司 遼(しょうじりょう)氏
司法書士 庄司法務事務所 代表。
司法書士、行政書士、金融広報アドバイザー。会津若松市出身。千葉大学法学科卒業後、25歳の時に司法書士試験に合格。郡山市内の司法書士事務所での勤務を経て、2013年3月司法書士庄司法務事務所を開業。相続・売買などの不動産登記、会社設立・役員変更・NPO法人などの商業・法人登記、成年後見業務を主な業務として、地域に密着したサービスの提供を行っている。